○メンバー
鈴木孝(2男,リーダー,),チャイ(?女,医療)艇 永井(4男,サブリーダー,記録),南澤(1女,
会計)艇 川戸(4男,食料),スパーニー(?女,渉外)艇 鈴木歩(4男,食料),ユルガ(?女,渉外)艇 中江(2男,渉外),新垣(3男,記録)艇
文責:永井
7月2日金曜日夕方,カヌーとザックをフウフウ言いながら運んで馬場に向かう.野郎何人かで力で決起会をした.
今回は夜行のムーンライト信州を使って豊科駅まで行く.
これだと金曜の深夜に新宿を出て,早朝4時半過ぎには松本近くまで行けるので,長野方面のツーリングや山行時には大変便利である.但し,指定席券(500円)が必要であり,混雑期には1ヶ月前の発売からすぐに売り切れてしまうこともあるので注意が必要だ.
新宿で全員集合し,23時54分発の列車に乗り込む.テスト期に近いからだろうか,座席は意外と空いていた.
連日の徹夜バイトで疲労が溜まり,酒が入っていたからだろうか,いつもはなかなか寝れないぼくも,床にシュラフを敷くとすぐ眠りに落ちた.
今回のメンバーは異色で・・・
チャイは台湾系ニュージーランド人,スパーニーはタイ人,ユルガはリトアニア人.全員留学生だ.
新人の新垣も,青学を卒業して高校で教鞭を執ってから,早稲田に3年編入というなかなか風変わりな経歴の持ち主である.
1年からは初企画の南澤,2年からはリーダーの鈴木と中江,あとは,『新宿の種馬』と謳われた川戸とその子分の歩,そしてぼくといういつもの面子.計10名5艇のパーティーである.
7月3日早朝,4時45分位に豊科駅に到着.最寄り駅の柏矢町駅への始発が来るまで1時間半以上間があるので,駅前を左に折れて200m程行った角にあるセブンイレブンで朝食.雑談やカードをしながら列車を待つ.
チャイの身体には幾つかタトゥーが入れてあり,婚約者の名前が入ったタトゥーもあるそうだ.明治の文豪永井荷風が,若い頃入れ上げた遊女の名前を彫って,晩年になってから銭湯に入るときなど,恥ずかしくて難儀したという話を思い出す(その後聞いた話では,今年結婚予定との事.おめでとう).
柏矢町駅までは一駅.駅から伸びる一本道を15分程歩くと万水橋にぶつかる.この橋の右岸下が出艇地点となる.100m程上流にはトイレもあり,名水百選にも選ばれた安曇野わさび田湧水群がある.湧水を見てきた鈴木の話によると,とても清冽な池だそうで,スタート前に見物してみるのもいいだろう.
二回目の万水川は相変わらず流れが速く,笹濁りの状態であった.
万水(よろずい)川は,豊科地区の用水路の役を担い,後半は鬱蒼とした森の中を抜け,観光地である大王わさび農場の脇を流れて,信濃川上流の別名である犀川へと合流する.日本唯一のカヌー雑誌である「カヌーライフ」誌で紹介されて一躍有名になったツーリングコースで,今や首都圏のパドラーには気田川や那珂川と並ぶ,或はそれらをも凌ぐ人気のゲレンデと云っていいだろう.元々が小さい川なので下れる距離は短いが,本コースの白眉であるわさび農場脇の水車小屋や森の中を下る辺りは,他のどこの川でも味わえない風情がある.
橋下には7時頃到着.水温は15,5度とかなり低め.晴れているのが有り難い.
フネを組み立て,初心者に講習.万水川は流速が速くて実際にフネを浮かべて練習するとアッと言う間に流されてしまうので,まずは簡単な理論とテクニックだけ教えて,実際に下って貰う.尚,スタートの際にもエディなどは1つも無く,護岸からいきなり流れに漕ぎ出す事になるので留意する事.
フネに荷物を積み込んで,10時に出発.フネは時速10km程のスピードでグングンと流れていく.時折現れる落ち込みも,瀬という程のものではなく,肩にかかる水飛沫が気持ち良い.
15分程下るとそれまで田園地帯であった両岸に,ブッシュや広葉樹が密生し始め,万水川は森の中に入った.
釧路川を思わせるこの風景はどうだろう.見渡す限り人工物が一切無い森の中をカヌーは流れ,両岸から川に覆い被さった広葉樹の葉の隙間から差し込む木漏れ日が川面に反射して何とも言えない幻想的な光景を創り出す.森や川が好きな人なら思わず溜息をついてしまうような瞬間だ.落雷にやられたのだろうか,岸から倒れ込んでいる倒木が早送りのように後方に飛んでゆく.カヌーイスト至福の時.
全く,探せば穴場というのはあるものだ,東京から実質1泊2日で行けるような場所にこんな川があるとは.
出発して25分も経つと右手に水車小屋が見え始める.トップで漕いでいたぼくと南澤のの艇は後ろに合図して舵を右に取った.右岸から支流の蓼(たて)川が流れ込んでおり,そこを50m程遡れば大王わさび農場である.
蓼川は万水川に比べればやや流れは緩やかで,しっかり漕ぎさえすれば荷物を満載した二人艇でも充分に遡れる川である.黒沢明監督の遺作『夢』のロケ地にもなった水車小屋の写真を撮りながらゆっくり遡上する.
10時30分,上陸ポイントにフネを付け,上陸.先客がいてフネを係留できないので,すぐ上の駐車場にフネを上げる.陸から見ると,蓼川の清冽な流れに無数のイワナやニジマスの稚魚が群れているのが判る.
上陸した途端に松本盆地の猛烈な熱気が押し寄せ,これは堪らんと川に飛び込んで涼んだ.万水川も蓼川も全体的に浅く,一番深いところでも腰まで水に浸かるかどうかといったところなので,泳げない人でも水遊びには最適だ.
農場内は一般の観光客も多く,流石にずぶ濡れのままではまずいので軽く着替え,もしくは服を乾かして入る.
このわさび農場は東京ドーム11個分もの面積があり,その気になれば1日中遊ぶこともできるだろう.中を軽く散歩して,観光用のわさび田などを見物しながら涼む.名物のわさびソフトクリームも美味しい。
幾つかあるレストランの内の1つで昼飯.わさび料理を喰らい,わさびビールを飲む.色は緑色で,イメージする程強烈な味ではないが,コクがあってわさびの爽やかな涼味が感じられる.うまい.尤も,こんな時は冷えたビールなら何でも旨いのだが.
軽く昼寝をした後、12時45分頃出発。再び森の中に入り、10分程漕いだ所で両岸が急激に開け、万水川は犀川に合流した。
犀川は川幅広く、両岸も広い川原になっており、万水川とは全く違った風景になる。合流地点に1〜1.5級の瀬。
この辺りは犀川本流と穂高川、高瀬川が合流し、複雑な合流波を作り出している。特に左岸側から合流する穂高川と高瀬川の流れ込みの辺りは強烈な渦が発生し、しっかり漕がないと足を取られて沈してしまう。
かなりの増水時であった去年は、あたかも壁の如き水の奔流が左から襲ってきて、すっかり油断していたぼくのフネは見事に沈してしまった。増水時は2級以上の瀬になるので気をつけたい。
これをクリアして500mも進まないうちに、犀川橋が見えてくる。この端の手前100mの左岸に大きなエディーと砂浜があるので、ここが練習場所兼休憩ポイントになる。
万水川では教えられなかった基本テクニックの講習をやり、泳いだり昼寝したりして3時半過ぎに出発。ここから本日のテン場である龍門淵公園まではもうすぐだ。
犀川橋を過ぎると大きな中州が川を2つに分流させているので、ここは右側を通る。
水産指導所の辺りに2〜3級の瀬。55MAPには書かれていないが、本コース最大の難所であろう。割と大きな落ち込みが3連続する波の高い瀬だが、険悪ではないので、沈を覚悟で行けば初心者でも充分チャレンジできる程度だ。
1発目は豪快なスタンディングウェーブ、2発目はちょっとしたストッパーウェーブ、3段目の落ち込みの後に、正面に隠れ岩が現れるのでこれを左に避ける。最初の方で沈した場合は、岩に体をぶつけないように注意すること。
久しぶりの瀬らしい瀬で、爽快に下った(南澤は初めての瀬で少し緊張していたようだったが)。「ケケケ、誰か沈しねーかな」と思って後ろを振り向くと一番経験の浅い中江・新垣艇が沈。うむ。予想通りだ。自分が漕ぎ抜けた場所で他人が沈してアップアップしているのを見るほど楽しい事はない。
さっき教えた水上での再乗艇も成功し、そのまま下る。寒い日に氷雨の振る中で沈したりすると、心身共にボルテージが下がるものだが、この気温と天気なら沈もまた快楽である。
すぐ下の再び川が合流する辺りで右岸に寄って岸に着ける。土手に遊歩道があり、その隣が龍門淵公園だ。4時にゴール。フネを揚げ、遊歩道にテントを張る。公園内はトイレ・水場があり、丁度この時期には池にアヤメが咲き誇り、目を楽しませてくれる。流木も川原に沢山転がっており、焚き火にも困らない。明科駅も近く、足りないものが有る時は買出しもできるので。かなり良いテン場と言っていいだろう。
乾いた服に着替えたら猛烈に眠くなってきて、横になるといつの間にか鈴木とぼくは眠ってしまった。7時頃、起きて川戸達が作ったカレーを喰う。御飯が少々芯飯気味だが、なんとか許せる範囲。もとより、寝ていた俺に文句を言う権利はないんだけどね。
川原で焚き火を作って、飲む。南澤をいじって遊んだ。こいつ、いいなぁ。こういう楽しい玩具が欲しかった所だ。面白い。
黄色い、満月に近い月が出て、広い犀川の川原を青白く照らした。
7月4日。朝5時ぴったりに目が覚める。
朝靄が薄れ行く中でハモニカを吹き、本を読んだ。誰も起きて来ないので、静かでいい。
公園内を散歩してみた。園内にある前川は常設のスラロームコースになっており、すぐ下流で犀川に合流する。昨日、魚を釣っているおっちゃんがいたな。ヤマメだろうか。釣道具を持って来ても良かったな。
テン場に戻り、紅茶を入れて余ったウイスキーをドボリと注ぐ。6時半頃、南澤が起き出して来た。
今日は早目に出たいので、ぼちぼち皆を起こす。
朝食のチキンラーメンを腹にぶち込んで後片付けをし、フネに荷物を積み込んで、9時10分出発。船割りは昨日と変わらず。
9時の時点で既に強烈な日差しが照りつけ、今日も暑くなりそうだ。
遠くにアルプスの山々が霞んで見え、風がひかり、水が跳ねる。
鈴木のフネを沈させたり(極寒の魚野川でこれをやられたのだ)、飛び込んだりして体を冷やしながら下った。
木戸橋の瀬を始め、2級程度の瀬が3つほど。いずれも快適に下れる程度の瀬だ。
犀川も万水川と同じく流れが速い。透明度自体はそれほどでもないが、周囲の景観が良く、晴れていれば実際の水質より綺麗に感じる。
10時15分頃、睦橋に到着。左岸にフネを着けて上陸。やはりゴールはここが良さそうだ。ただ、土手の上の道までが急坂になっており、滑り易いので注意。
12時に明科第一交通(0263−82−2306)のタクシーに迎えに来て貰うように電話して、それまでに荷物とカヌーを広げて乾す。ガン晴れなので大分効率良く乾いた。
橋の左岸側の袂にある民家からクロネコヤマトの宅急便が送れるので、去年と同じく東京にカヌー、パドルを送る。
明科駅まではタクシーで15分、1台2500円弱。
駅前にザックを置いて、右手に100m程歩いた高野屋という蕎麦屋で昼飯。ここは雰囲気も良く、美味しいのでお奨め。特に馬刺は絶品。こんなに幸せでごめんなさいごめんなさいと呟きながら良く冷えた生ビールをウグウグと飲む。
店を出ると、モワッとした熱気と共に油蝉の声が押し寄せて来た。
梅雨は終わり、もう夏である。