【OB企画】利根川紀行2008
○日程
2008/07/18~21
○メンバー(気持ち)
佐々木(1女)・・・OBのイジメに耐える健気で可憐な少女、真里ちゃん!
山 田(2男)・・・剣豪に憧れる三流剣士、僕。
鈴 木(4男)・・・いくつになってもやんちゃな社会人、タカヒロさん!
関 崎(4男)・・・釣りにこそ男の浪漫を賭ける王子、関さん!
2008年夏、僕は旅に出た。忘れられぬ一夏の思い出。それはまるで蝉や蛍のように短命であるが、その音や輝きは強く、雄々しく、気高く、その濃密な一生を誇示するかの如く。広大な青い空と、流れる白い入道雲と、水面に太陽光が乱反射する利根川と、この地球上の大自然と、そして、この企画の素晴らしい成員たちに、感謝の意を込めてこの記録を捧げようと思う。
2008年7月18日(金)雨のち曇
第一話『邂逅』
長く続いた梅雨の季節も終わり、初夏の陽気がまぶしくなる頃だった。昼間から降り続いていた雨も止み、天気は回復傾向にある。今日は金曜日。この時期、学生はどこか風雲に誘われるようにして放浪の旅に出るものであるが、大学では学期末のテストが催されており、そのような気配は一向にない。そんな中、僕は五時限目の写すだけのテストを適当に終わらせ、いつものようにザックを担ぎ、人をかき分け新学へと先を急いだ。僕と関さんは先に集合し、新学で団装を回収する手筈になっていたからだ。この作業ももう4年目になる。初めは常軌を逸していると思われたこの作業にも随分と慣れたせいか、荷物が重い多いなどと特段感じるわけでもなく、ただ当たり前のこととして大量の荷物をまとめた。思うことと言えば、最近部室の利用ができるようになり便利になったと感じるぐらいである。数分後、風のように関さんが現れ、二人で汗だくになりながら団装を外へと持ち運んだ。そこから少し歩き、関さんの車に豪快に団装を詰め込む。カヌーにザックにその他団装で車は荷物で溢れかえった。膨大な量の荷物は後方部のトランクを埋め尽くし、バックミラーが見えなくなるほどであった。荷詰めを終えて車に乗り込むと、しばらく火照った身体をエアコンの効いた車内で冷ました。もう外は夏である。少しして二人は真里ちゃんを拾いに馬場へと車を走らせた。
今回は車で川まで行くという豪勢な企画である。車で川に行くなど4年目にして初めてである。自ずと斬新さに胸が躍った。19時に馬場に着き、10分遅れでやってきた真里ちゃんと無事再会を果たす。新調された眼鏡を初めて見たせいか、眼鏡姿の真里ちゃんがどこか印象的だった。そのまま真里ちゃんを車に乗せ、ラーメン二郎横の急勾配のパーキングエリアに車を止め、西友へと買い出しに向かう。いつもながら、馬場での買い出しは企画の始まりを実感させてくれる。今回、購入する物は少なかったが、企画の気配を感じさせるには十分だった。今晩の酒と明日の食料のパンとラーメンを購入する。ここまで順調な出だしかと思ったが、タカヒロさんの仕事が長引くらしく、夕飯は暇つぶしを兼ねてガストでダラダラする。金曜ということでガストも普段より混んでいるようだった。車企画だけにこの待機時間に酒を飲めないのが残念である。しばらくして、タカヒロさんから連絡があり、袋小路の一方通行に苦労しながらも22時にはタカヒロさん宅に到着し、全員が集結する。ふと真里ちゃんがお米を忘れたことに気づいたので、タカヒロさん宅から米を奪い、いざ利根川へと車を走らせる。全員揃ったところでようやく企画の始まりである。
免許証を忘れたタカヒロさんをよそに、関さんの車は軽快に首都高を駆け抜けた。やはり僕は自然人企画で車を利用する新鮮さに興奮していた。幼い頃抱いていた大学生というイメージが車を使って旅をするということだったからかもしれない。ドライブだけでなんだか幸せな気分に浸る。おかげで車内は胸がパチパチする程騒ぐ元気なテンションであった。といっても、この車に大学生は半分しかいない。人間力の定義やマゾさんの知られざる過去(※燕・常念岳記録参照)について語ったり、ナンバープレートを使った数字ゲームをしたりしているうちに、いつの間にか後部座席で真里ちゃんと僕はうとうとしてしまう。まどろみの中、関さんとタカヒロさんがミスチルの「Over」の歌詞の「いつか街で偶然出会っても今以上に綺麗になってないで」というフレーズについて綺麗になるならないどっちがいいか語り合っているのが耳に残った。僕も一人で少し考え出すと、だんだんと意識が遠のいていった。
程よくして、一行は水上に至る。駐車場の関係で本日のテン場はJA前プットインとする。細い道を下り、野球場らしき川原の近くの敷地にテントを設営するも、建て方が少し怪しい関さん。車内にビールを忘れたためじゃんけんで負ける真里ちゃん。みんなを撮影するタカヒロさん。北アルプスのお土産「雷鳥の里」を真里ちゃんに贈る僕。今宵は満月である。月を肴に決起会を始める。関さんのファインプレー、クーラーボックスでビールが冷えていて酒が殊更旨い。ビールにピスタチオが美味しいとみんなが言う中、真面目に殻ごと食べようとするタカヒロさんをみんなで嘲笑する。タカヒロさんのこういうお茶目なところは社会人になっても変わらない。初めて会ったときからそうだった。川へ行けばよく飲み、山へ行けばよく走り回り、チャリを漕げばよくマゾる。そんなタカヒロさんの背中を見て僕も一緒によく無茶をして一緒に笑ったものだった。関さんがテントから出たとき、月が綺麗だったので、月をバックに関さんを撮影し、片手に酒を持ちながらゆっくりと満月を眺める。至福の時とはこういう時をいうのだろう。寝そべったりしながら他愛のない話で盛り上がる。時間はいくらあっても足りなかった。
2時半になる頃にはタカヒロさんが残業の疲れからうとうとしてきたので消灯とする。関さんのエアマットがやたら大きく、膨らませるのに苦労していたので、空気入れを真里ちゃんが優しく手伝ってあげていた。海でイルカを膨らませるのが得意な真里ちゃんはこんなエアマ3吹きくらいで余裕だと豪語した。OBがエアマを広げる中、真里ちゃんはお姉様譲りの厚いシュラフをエアマ代わりと称しOBに対抗して領土を確保する。この企画、現役生は真里ちゃんだけである。へ電の電気を消し、幸先の良い始まりの一日が終わりを告げる。僕はシュラフにもぐらず、シュラフを羽織るようにして眠りについた。未だ、旅の興奮は冷め切らない。
心の俳句、其の壱 「 夏休み 月を片手に 酒づく夜 」
2008年7月19日(土)晴れ時々曇り
第二話『従容』
朝6時半、暑さと釣り師の釣れねーなぁという会話によって無理矢理起こされる。おかげで朝からつれないのはこっちである。しかしながら、起きてタカヒロさんのシュラフを畳んであげる心優しい真里ちゃんによって清々しい朝へと変貌を遂げる。行方不明の関さんを差し置いて三人で朝食の準備に取り掛かる。朝食はパンとソーセージ炒めとメロン。メロン以外は昨晩買い出したものである。いつの間にか関さんも戻り、一同は豪華絢爛な洋食スタイルに歓喜極まる。朝食の華であったメロンはというと、今回真里ちゃんが実家からわざわざ持参してきてくれたものであった。その高級完熟メロンをさっくり斬り、幸せをかみしめながらメロンを美味しく頂く。上品でとろける甘い味はどこか真里ちゃんを彷彿とさせた。
テントから出ると早くも夏の日差しが強くなっていた。今日は時間がなさそうなのでサクサク動こうということで綿密に予定を立てる。出来上がった計画は午前中には川を下れるという完璧なプランニングであった。各自それに沿うように動き始め、予定通り8時には順調にテン場を出る。本日は利根川最難所である紅葉峡を下る計画である。紅葉峡は関東最大級といっていい程の激流区間である。ただ、連日の晴天のため水がなさそうだったので、関さんを除く3人で幸知橋から湯桧曽川を下り歩いて下見をすることにした。下見の途中、川の流れが強いところがあり、危ないので真里ちゃんを途中に置いてタカヒロさんと二人で先を進む。川沿いは森が深く、その間を透明度の高い綺麗な水が利根川へと注ぎ込む。想像以上の水の綺麗さに胸が熱くなった。間もなくして支流の合流地点に着き、利根川を見ると、水位が低く岩だらけでとても下れそうもなかった。水量さえあれば、きっとこの流れは激流へと変貌するのであろう。今は影を潜めているようだった。タカヒロさんと下るのは無理だと判断し、元来た道を引き返しては木陰にて一人で楽しそうに歌を口ずさむ真里ちゃんを拾い、泣く泣く紅葉峡断念を告げた。照り返す水面が来たときよりも眩しくなっていた。
急遽予定を変更し、紅葉峡下の水明荘プットインから下ることにする。予定は変わったものの、未だ計画が順調に進んでいることに変わりはなかった。荷物を車から颯爽と下ろし、そのまま早めにパッキングをする。川を下れる準備を早めに作出し、後はのんびりしようという魂胆であろう。パッキングを早めに済ませた関さんとタカヒロさんが近くのスーパーへと買い出しに車を走らせる。今晩の食材と明日の昼までの食料の買い出しである。その間、水明荘にセンターを借りに行くと受付のお姉さんが快くセンターを貸してくれる。その後、真里ちゃんがセンターを借りに行くと何故か不機嫌そうな顔をされる。人の心とは珍奇なものである。
辺りは川のせせらぎ以外は静寂を保っていた。時折、鳥か虫の鳴き声がするくらいである。蝉が鳴くにはまだ少し時期が早いようだ。この辺りからついに予定の歯車が狂い始める。僕はおもむろに木剣を取り出すと、剣豪と二人きりの稽古を始めた。したためた木剣は企画用にと草津で購入した真打である。剣豪は、幼い子供が玩具を手にするかのように瞳を輝かせながら、生き生きとした表情で木剣を握った。上段の秘訣、フェイントのかけ方、打ちのタイミングの重要性、小手打ちを誘っての返し技などを剣豪から直々に剣の技を伝授してもらう。剣に目覚めたばかりの自分にとって、剣豪から教わる一つ一つの動きと言葉が何よりも新鮮だった。剣豪の動きと動作の意味を理解することで今まで剣越しに感じてきたものが確信へと次第に変わっていく。時折剣豪が見せるどこか遠くの虚空を見つめる眼差しから、真里ちゃんが高校時代の青臭い日々に耽っているのだと僕は感じた。稽古を終えると、今度は夏の強い日差しと川の心地よいせせらぎが、熱くなった真里ちゃんと僕を川へと誘った。僕はライジャを取り出すと、真里ちゃんを沈めたり、水掛けをしたりして晴れた川を二人で堪能した。降り掛かる川の水がほどよく暑さを忘れさせてくれた。何分晴れた川は最高である。こうして時間を忘れて二人で遊んでいると、いつの間にか戻ってきた関さんとタカヒロさんに見つかり、準備を怠っていたことへのダメ出しを受け、夢から覚めたように正気に戻る。我々のために買ってきて下さったアイスが実に心苦しかった。アイスの償いとして、僕は一人でカヌー2艇を一気に膨らませる。ふと1男の若かりし頃を思い出してしまった。
昼食にラーメンを食べる。真里ちゃんチョイスで買ってきてもらった野菜生活が充実しており、美味しいと気づかされる。食事前に佐々木家の牛乳伝説について真里ちゃんを問いただすと、恥ずかしそうに口を閉ざす真里ちゃん。ますます真里ちゃんの謎は深まった。食後、買い足した食材や団装のパッキングをする。真里ちゃん以外OBはウェットスーツを持参していたので、関さんが寒くならないようにと、四万十川でタイツ王子と呼ばれる所以となったスパッツを真里ちゃんに貸してあげる。王子の名に恥じない懐の広さである。夏とは言え、関東の川の水は山からの雪解け水が混入するため、水温は頗る冷たいのだ。パッキングした車の鍵を出し入れしたり、団装のパッキングを解き直したりして、思いの外、時間を費やす。それでもなお、出発前にはみんなで川遊びをする。何かと真里ちゃんを沈めたがるOB。いやいやと言いつつも潔く沈められる真里ちゃん。ブクブクブク。水は心の奥にまで沁みるほどの冷たさだったが、暑い日差しがその冷たさをすぐさま払い除けてくれた。出発時、荷物を括るためのゴム紐が切れてしまい、最後の最後に再びパッキングを解き、車まで紐を取りに行くという面倒な出来事もあり、予定より大分遅れて13時半に出発の準備が整う。関さんがどこかの誰かを彷彿とさせるようにして頭にバンダナを巻く。キャラ盗襲も甚だしいようであった。
心の俳句、其の弐 「 剣豪の 優しき心 メロン味 」
第三話『首途』
さて、本日の船割を告げる前に、この度使うカヌーについて一通り書いておくことにしよう。今回使う2艇は、激流対策として新カヌー(セビラーSVX200)と沈対策として旧カヌー(グモテックスヘリオス380)を使う。新カヌーは旧カヌーに近い形状でラフト並の安定感を持つ一方、沈すると重すぎて二人掛かりでなければ元に戻すことは不可能。他方、旧カヌーは安定感こそ無く沈しやすいが、沈したとき一人でも対応できるといったところに利点がある。利根川は激流であるため、両者の特徴をいかして1艇ずつ持って行くことにする。そして、この選択が真里ちゃんの生死を分けることになる。
今更ながら、この企画、実は企画者が誰だか不明確であった。現役時代から川を多く下っているタカヒロさん、ソロで下る回数は数知れない関さん、利根川に一番詳しい僕、いとかわいげなる真里ちゃん、川派が各自分担協力して成り立っている企画であった。そこで、上に任せつつもなんとなく船割及び順番が決まる。
① 山田・佐々木(旧艇)
② 鈴木・関崎 (新艇)
真里ちゃんがいっぱい沈できるようにとそこの配慮は怠らないOBであった。集合写真を撮り、水上峡に向け出発する。
真里ちゃんと組むのは実に1年ぶりの天竜川以来である。僕の川企画史上一番苦しめられた川がその天竜川であった。人工物だらけの天竜スパイラル(不毛スパイラル)により5艇全艇が沈をし、そのとき脛に負ったえぐれ傷の痕跡が未だに残っている。見る度に天竜川の思い出が蘇るので何となく幸せな気分になれる。身体に川に関わる傷があることは川派にとっての勲章といえる。利根川はその天竜川より激しいようなのでリベンジには持ってこいだと二人で意気込む。もっとも、真里ちゃんと死ねるのならそれもそれで悪くないのだが。
ザラ瀬を越えるとちょっとした渓谷に入る。天竜峡を彷彿とさせる景観に思い出が更に蘇る。あのときもそうだった。今日のように天気には恵まれたいい企画であった。渓谷はトロ場であるにもかかわらず、水の透明度は2メートル底まで綺麗に見える程だった。そんな折り、OB二人がニヤニヤしながら真里ちゃんを沈めにやってくる。脅える真里ちゃん。ニタニタするOB二人。しかし、ここは懸命な体重移動で沈を回避し、悪しきOBを駆逐して二人だけの時間を死守する。安堵に浸る間もなく、瀬の音が迫ってくるようだった。
渓谷を抜けると、ザラ瀬が連続した。渇水でなければ、2級クラスの程よいウェーブが続く楽しい区間であろう。2艇ともザラ瀬をひっぱったり、飛び跳ねたりしてゴリゴリ時間をかけて進む。浅瀬に足をとられることもあったが、綺麗な水と夏の日差しと真里ちゃんの笑いが決して僕を嫌な気持ちにはさせてくれなかった。昨日のテン場の横の川原を通る。もう随分昔のことのように思われる川原だった。川から見上げる昨日のテン場に真里ちゃんはなかなか気づいてくれない。いろいろありすぎて昨日のことが遠い日の出来事のようだったからか、ただ鈍かっただけか、いや、川から見る景色は陸(おか)から見る景色とは別世界であるからだろう。気がつくにはちょっとしたコツがいる。しばらく辺りの景色を眺めているとようやく気づいてくれる。気づくのを待ちながら見上げる空はいつもより少し高く澄んでいた。舟の上だったからだろう。
ザラ瀬と格闘していると、水上峡に入る。スタートの目印は右岸の廃墟宿跡の瀬である。まともな瀬の出現に僕は少々興奮する。やや浅いとはいえ、程よい落ち込みと水しぶきが心地よく降り掛かる。思った以上に真里ちゃんが上手くこげていたので一人で感心する。前衛でバックストロークを入れられるのは、よく艇の操作をわかっている証拠である。同時に前衛に舵を入れられるようでは僕もまだまだということでもある。そんな真里ちゃんに見とれていると、悲劇は起こる。特段大した瀬ではなかったのだが、横波をくらった沈、いや、心の隙を突かれた沈だったと言おう。ま、真里ちゃーーーーーーん!ブクブクブク・・・。沈したダサイ姿をタカヒロさんに激写される。自分の素沈を激写されることほど屈辱的なことはない。真里ちゃん、ゴメンよ。
紅葉橋手前から辺りが騒がしくなる。ラフトが20隻くらいたむろしており、総勢200名くらいの人で群れていた。海賊みたいと真里ちゃんが形容するほどの圧巻である。波間に漂う人の群れはゴミのようである。ラフトの間を細々と通る度に、海賊が真里ちゃんほしさに水をぶっ掛けてくるので応戦する。オラオラオラオラ!外人のラフト客はもはやホントに海賊にしか見えない。言葉が通じないならばと国境を越えて海戦を繰り広げる。ヨーホー。ミッドウェーさながらの海戦を繰り広げていると、いつの間にかOB艇が攻撃を受け、岩に張り付き座礁していた。ラフトが邪魔でルートがなくなってしまった挙句、岩に張り付いてしまったようだ。援護に向かい三人がかりでカヌーを押し出し、なんとか無事に脱出する。渇水時は浅く、ルートも限られてくるので渋滞気味にならざるを得ない。トラックに煽られるような気分で諏訪峡大橋までラフトから逃げるようにして下る。
諏訪峡大橋からようやく諏訪峡が始まる。橋ではバンジージャンプが催されていたため、橋の上はギャラリーで溢れかえっていた。ラフトが多すぎるのと下見を兼ねてここで1時間ばかり休憩を取る。日陰と言うこともあり真里ちゃんが寒そうにしていたので、ポットに入れてきた暖かいお茶を真里ちゃんにそっと差し出す。英国育ちの紳士はいついかなるときでもお茶を嗜むのが基本である。暖かいお茶が心にゆとりとやすらぎを与えたようだった。そんな休憩の中、海賊達が上陸してきて突然目の前で飛び込みを慌ただしく始める。始めはよく分からなかったが、どうやら我々は飛び込みポイントで休憩していたようである。ふと真里ちゃんの背後でニヤニヤするOB。タカヒロさんが真里ちゃんを容赦なく突き落とす。水に飛び込んでは真里ちゃんを容赦なく沈める関さん。いじめに耐える健気な真里ちゃん。そんな真里ちゃんを再び沈めては川を満喫するのであった。こうして水遊びや岩盤浴をしてダラダラしているうちに4時を回り、海賊も撤収し始める。ようやく我々も諏訪峡へと旅立つときが来たようだ。
心の俳句、其の参 「 清流に 想いを乗せて 利根下り 」
第四話『萌牙』
諏訪峡は3級クラスの瀬が続く激流区間である。そのスタートを飾るのが竜ヶ瀬である。水竜の如き白い岩肌が色鮮やかに波飛沫と同調し、美しく、なおかつ、内部に力を秘めた瀬であった。瀬は約300メートル続き、最後に大きな落ち込みがある。渇水気味なので一番深いメインカレントを下るということでルートを確認し、打ち合わせを終える。久々の激流に恐怖と興奮が交錯するこの緊張感が何とも言えない。そう、この緊張感こそが激流の虜になる所以なのだ。カヌーを漕ぎ出すと瀬に控えていた水竜の慟哭が迫ってくる。水竜の好物である清楚系乙女真里ちゃんを狙い瀬で蠢く水竜の声である。戦闘開始、蹲踞!瀬に入ると、まず右に体を裁いて一撃目の牙を交わす。次は左。その刹那、二撃目の牙にカヌーが捉えられ、座礁する。ま、真里ちゃんが危ない!水竜に襲われ、思わず真里ちゃんがパドルを放してしまう。これまでかと思ったものの、座礁している間にすり抜けていたOB艇がパドルを回収してわざわざ運んで来てくれたため、第二ラウンドが始まる。竜の核心部である咽喉部へと剣尖を向ける。応戦する水竜。再び竜が鋭く牙を剥く、これぞまさしく牙突!複雑な流れに再度足を捕られ、座礁してしまう。それでもなお、体勢を整え脱出し、最後の落ち込みにてこの一太刀に賭ける。ぐぉおおおお・・・ま、真里ちゃーーーーーん!ブクブクブクブク・・・。悪即斬の牙突で水竜は鮮やかに真里ちゃんだけを飲み込んだ。真里ちゃんの一人沈であった。一生の不覚。真里ちゃん、守ってあげられなくてゴメンよ。竜にむさぼられた真里ちゃんを救出するが、真里ちゃんの左腕に牙の痕が2ヶ所生々しく残ることになった。
気を取り直し、竜ヶ瀬のあとは激流が三連続する瀬に向かう。始めの瀬はフリッパーズ。利根川で初めて全員で下見に行く。中央の切り立った岩により、最後の落ち込みの別れが明暗を分ける瀬である。水量と水流から右の狭いルートを選択する。今度は先にOB艇が行く。瀬を抜けたアンダーカットロックで身をこすりながらも何とか無事瀬を抜けたようだった。それを見届けた後、僕も真里ちゃんと気合いを入れ、瀬に突入する。岩の張り付きを恐れ、やや角度をつけすぎて入ったため、落ち込みの岩と岩の間で中途半端に座礁してしまう。そのため、真里ちゃんがホワイトウォーターの波を降り被る状態になってしまう。ま、真里ちゃんが危ない!とっさに岩を蹴りなんとか水没を回避して無事瀬を抜ける。今度はなんとか真里ちゃんを死守する。安堵感で溢れると共に、カヌーは水で満杯になっていた。
2番手はショットガン。渇水時なので下見なしで普通に岩だらけの瀬を下る。特段問題なし。そして、諏訪峡最後の瀬メガウォッシュへ。四万十川の二双の瀬をコンパクトにしたような瀬である。素直な落ち込みではあるが、複雑な流れから集まる落ち込みのウェーブが轟沈を誘う。ここに来て真里ちゃんの唇が寒さから青ざめてくる。川に浸かって4時間、OBはウェットスーツを纏っている。真里ちゃんの体力も相当疲弊しているようであった。ま、真里ちゃんが危ない!さりげなく暖かいお茶を入れて真里ちゃんの体力回復を図る。僕はふと青い唇から2年前の長良川で脅える稲田のような真里ちゃんを予想したが、真里ちゃんは毅然としていた。予想を越えるそんな真里ちゃんを微笑ましく思う。OBの気の利いた真里ちゃんへの計らいにより今度は安定性の高い新カヌーに真里ちゃんを乗せて下ることにする。単にOB二人が新カヌーに物足りないだけということはここだけの話であるが。本日最後の瀬なので、沈だけはしないと真里ちゃんに誓う。瀬の先の岩からOB二人がレスキューの準備と動画の撮影をしている。ますます沈できない状況になる。背水の陣ならぬ背水の瀬。僕は真里ちゃんとパドルを合わせて一層気合いを入れる。激流において、この、二人だけで激流と対峙する瞬間がたまらないのだ。うぉおおおおお!右から瀬に突入し、やや左方向へ抜ける。落ち込みへ入ると眼前に水の壁ができている。旧艇と違い新艇は抜群の安定感で水の壁を切り裂くように、大量の水を被るも瀬を乗り越える。時間にすればものの数秒であるかもしれないが、瀬の中の情景は時が止まったようにコマ送りに流れ、実際よりも時を長く感じる。そしてコマ送りの世界から視界が開けると、もとの時空間へと弾き出されるのである。最後の最後で真里ちゃんとここ一番の喜びをかみしめ合った。次はOB二人が瀬に突入する。旧艇の場合、沈するか否かは体重移動にかかってくる。OB艇は息のあったテクで落ち込みのウェーブを絶妙なバランスで切り抜ける。さすが、幾度となく激流を下ってきた二人だけに息もぴったりであった。こうして、長きにわたる諏訪峡での戦いを終える。結局、諏訪峡では真里ちゃん一人が竜に喰われたものの、両艇ともノー沈で切り抜けることとなった。
少し漕ぎ、銚子橋先に上陸し本日のテン場とする。川岸に艇を付けると、真里ちゃんの唇はますます青くなっているようであった。ま、真里ちゃんが危ない!ここぞとOBは一丸となり、真里ちゃんのためにテントを立て、各自作業を始める。ガス缶とヘッドでお茶を沸かし、釣りに出かける関さん。薪を拾いにぶらぶらする僕とタカヒロさん。着替えを済ませお茶を飲む真里ちゃん。そんなこんなで空はもう西日が陰ってくる頃合いである。辺りの川原はもう赤橙色に染まり、山並は燃えている。
心の俳句、其の肆 「 激流や 水に呑まれて 竜牙痕 」
第五話『光芒』
夕飯の準備を明るいうちにということで、野菜を軽く切り、米を水につけておく。今晩のメニューはハヤシライスである。素直にカレーではなく、ハヤシライスあたりを買ってくるところがさすがOBである。最近はニンニク奉行に落ち着いていたが、久しぶりに米奉行に舞い戻る。そして僕の心は舞い上がる。吸水のため米を水につけ、米をいつでも炊けるようにしておく。風呂の準備をサクッと済ませ、当たり前のように全員酒を片手に持ち、いざ温泉へと向かう。
事前に調べていた諏訪の湯へ向かうが、それらしきものはなく、代わりに温泉センターなる看板があるのでそちらに向かう。なんとなく予想はしていたが、着いてみると結局、温泉センター諏訪の湯という落ちであった。町営の温泉であり300円という破格の値段である。さらに、歯ブラシに至っては10円という、あってないような値段であった。温泉施設はこぢんまりとはしていたが、激流で疲れた身体を癒すには十分すぎる程の天然温泉を満喫する。味のある温泉が旅の情調を掻き立てた。温泉内は薄い板壁で仕切られているようだったので、OBはところ構わず「真里ちゃーーーん」と声を揃えて叫んでみる。結局、声が響きすぎてあまりよく聞こえなかったようだった。
風呂から上がり、行きに見つけた商店に寄るが、店は既に閉まっていた。しかしながら、田舎に似合わず自販機が有毛だったため、酒が24時間買えるという僥倖を発見し、当然の如く即ビールを購入する。蓋を開けると弾けんばかりの泡が溢れだし、冷えたビールが喉越しを潤わす。風呂の行きも帰りもビールを飲めるとはなんて幸せなのだろう。そして、この発見を契機に怒濤の僥倖スパイラルの渦に飲み込まれることになるとはまだ誰も知らない。
辺りはもう既に闇に包まれていた。ふと空を見上げると、天の川がぼんやりと見えた。雲か天の川かの判断が微妙な感じではあったが、関さんが天の川の中に星を見つけ、雲だったら星は見えないよと理論的に天の川だと立証してくれた。タカヒロさんは初めて天の川を見たといっていたが、釧路でも四万十でもみたはずなのにそう主張した。酒を片手に天の川。数々の星に魅せられるようにして一同のテンションが徐々に上がってくる。
それは突然の光だった。目を疑うようなかすかな柔らかい光が目の前を横切った。「蛍だっ!」僕にとってそれは初めて見る蛍光だった。夢中になって光の後を追いかける。手にとってみると輝きは微かに強弱をつけてぼんやりと光っている。蛍の呼吸に合わせるかのように眼前の輝きは生きていた。手を通して感じる生きた光は熱をも放ち、生きた光を肌ですら感じる。これが蛍である。全身全霊で感じる生きた自然を感じるとき、人の感動はただの歓喜の念から自然への畏怖の念をも感じ取り、全身の震えと身の毛がよだつほどの生命の本質的な反応を示す。何もかも忘れ、眼前の自然に心を奪われた。ずっと忘れかけていた大切な何かを感じた瞬間だった。ただ、幸せだと思えたときだった。
蛍に誘われるようにして先を進むと、辺りは蛍で溢れかえっていた。田んぼの水路や林の奥では無数の光がついては消え、消えてはつき夏の夜を彩った。ぼんやりと光る生きた光の強弱は都会のイルミネーションにはない自然特有の柔らかさを伝えてくれた。それは単色であっても美しいと形容するには十分すぎるほどの輝きであった。足下の水たまりに光る微かな光は蛍の幼虫の光であった。小さな命の輝きもこの暗闇の中で懸命に生きていた。辺りは自然に囲まれている。蛍の里。空を再度見上げると、山の端から雲の合間を抜けるように赤みがかった満月が顔を出している。何故赤みがかっているのか定かではなかったが、そんなことはどうでもよかった。ただ、月の、壮大な自然の美しさを真正面から受け止めたときだった。爽やかな夜風と冷えたビールが夏の暑さを忘れさせていたことにこのとき僕はまだ気づいていない。
一際興奮していたのが真里ちゃんであった。真里ちゃんは飛び跳ねながら一連の僥倖を全身で表現する。幸せを連呼して、こんなに幸せでいいのか不安になるほど喜んでくれた。普段と違い、可愛らしくはしゃぎ続ける真里ちゃんの姿にOBは見とれながら、月明かりの道をテン場に向かって歩み出した。テン場に戻ると、月明かりが強くなり天の川も影を潜める。僕は米を火に掛け、タカヒロさんがハヤシライスのルーを手がける。料理の間ずっとテン場から見える遠くの林にあの光を何度も確認した。時折、迷い出た蛍が僕らの頭上をかすめる。夜空を背景に飛ぶ蛍は流れ星と見まがうほど美しく暗闇を駆け抜ける。捕まえた蛍を真里ちゃんが両手で覆うと手の隙間から光がこぼれ、夏を感じさせた。関さんから、長く光るのが源氏蛍で、短く光るのが平家蛍だということを教えてもらったので、みんなで源氏か平家かを見分けながら、月と蛍を肴にこの上なく贅沢な日本酒を飲む。タカヒロさんはコッヘルの蓋で日本酒を飲んでいたため、気がつくと調理に出たゴミや何かが無意識に蓋に置かれたために、何度か変なものが混じってしまうことがあった。タカヒロさんは笑ってそれを誤魔化した。つまみは僕が明日香さんからご近所付き合いでもらった枝豆である。塩を利かせて茹で、酒と一緒にみんなで美味しく豆をつまむ。時が経つのを感じさせない幸せな一時であった。
ハヤシライスのルーができると、米をあける。湯気と一緒に米のいい香りが鼻を衝く。米の出来は完璧である。底を焦がさないで、かつ、炊飯器を上回る米奉行の名に恥じない最高のクオリティである。僕の頭に描いた米が目の前にあった。熱々のハヤシライスと日本酒が格別の美味を謳う。料理の充実した企画である。心温まる静かな一時を堪能した。
蛍は光っている季節・時間とも限られており、夏の短い季節の一時だけしか姿を見せない。儚いようであって、またその限られた時がその美しさを一層際だたせるのかもしれない。僕らの青春時代も限られた時間の中で精一杯輝いているのだろうか。青春という光から抜け出したとき、蛍を眺めるようにして青春を振り返るようなときがいつか訪れるのだろうか。食後、蛍のピークも過ぎたので焚き火を始める。薪が湿っているせいか、火種があまりないせいか、なかなか上手く火が付かない。それでも、火を懸命にタカヒロさんが熾そうと頑張って下さる。ようやく火がつき始め、薪が燻ってきた頃、あれだけ晴れていた空から雨が降ってくる。通り雨のような気もしたが、夜も更けてきたので、焚き火をあきらめ明日に備えることにする。きっと今宵の出来事は生涯忘れられない思い出として生き続けるのだろう。目を閉じると、雨がテントを軽く叩く音がしていた。
心の俳句、其の伍 「 蛍火や 田園飾る 夏祭り 」
2008年7月20日(日)晴れ時々曇り
第六話『接近』
思わず暑さで目が覚める。気づくと関さんとタカヒロさんがいない。どうやら昨日釣れなかったので、今朝その挽回を図ろうというところだろう。真里ちゃんと再び夢の世界へ戻る。しばらくするとタカヒロさんが起こしにやってくる。たった今タカヒロさんに褒められる夢を見ていたのでなんとも複雑な気分になった。一方、真里ちゃんは銃で撃たれて死んでしまった夢を見る。それでも、真里ちゃんは、死ぬ夢は生まれ変わりの夢だから縁起がいいはずと前向きな姿勢だった。真里ちゃんはいつの間にか関さんのエアマの上に移動している。気丈な一面とは裏腹に、左腕に残る2ヶ所の竜牙痕が赤く腫れ上がっており痛々しい。嫁入り前だというのに真里ちゃんを傷ものにしてしまったことに対する自責の念に駆られた。その間も関さんは相変わらず糸を垂らしたままである。
朝食はスパゲティー。枝豆用に持ってきたザルがここでも活躍する。準備の間、真里ちゃんの若かりし剣豪時代の話を聞く。高校時代、真里ちゃんは自分に剣を向ける者ならば誰であれ、容赦なく斬り捨てた。当時、剣豪として部で最強を誇り、恐れられていた真里ちゃん。その実力から当然主将格であったのにも関わらず、真里ちゃんは主将を避け、肩書きだけにとらわれない力だけが物を言う真剣の世界に生きた。個人戦は言うに及ばず、団体戦においては斬り込み隊長としての先鋒役を自ら買って出、多くの剣客を斬るに斬った。殺伐と斬った。如何に斬るかということよりもただ斬ることが全てだった。その鬼神の如き天部の才は一番隊長の沖田総司を彷彿とさせた。実力だけでなく、剣を振うにはまだ若すぎたところまでもが総司とどこか似たものを感じさせた。敢えて違いを言うとすれば、総司が平突きを多用するのに対し、真里ちゃんは中段の構えからの正攻法を基本としている。突きの殺傷能力は非常に高いが、交されたときに隙が大きくなることと突いたとしても直後の動作に隙ができてしまうため、集団戦には不向きである。突きを得意とする三番隊長の斉藤一でさえも集団戦では突きを控えることが多かったが、それでも総司は突きを多用した。一番隊長として相手の死を確実にという気概が実戦においてもそうさせたのかもしれない。他方、真里ちゃんの正攻法は相手に合わせ、変幻自在の戦い方をとる。己の実力が相手に呼応するかのように、攻め・返しの一手も刻々と変わり、実力次第で無限に剣技が研ぎ澄まされていく。百戦錬磨の副長土方歳三がそうだったように、真里ちゃんも人を斬る度にその腕は研ぎ澄まされていった。突きに絶対の自信を持つ総司と突きを技の一つとする真里ちゃんに幾分違いがある程だった。真里ちゃんは自分の敗戦こそがチームの敗戦として剣豪の矜恃を語った。この可愛らしい少女が幾人もの剣客を斬ってきたなど誰が思うことであろうか。知られざる真里ちゃんを垣間見た気分になる。麺が余るともったいないといって茹でた大量のゲティーを前にして語る真里ちゃんであった。
食後、剣豪と稽古をする。昨日と違い、今日は礼作法から入り、蹲踞を経て剣を交える。真里ちゃんは木剣、僕はパドルで対峙する。始めは軽い気持ちだった。剣豪に舐めて掛かった時点で既に死は迫っていた。急に辺りを緊張が包んだ。剣豪の気迫が構えからジワジワと滲み出ている。気を緩めれば荘厳な空気に押しつぶされそうになる。剣豪の気迫が身体にのし掛かり、動きを重く鈍らせる。頭によぎるあらゆる必勝のシナリオは剣豪に斬られるシナリオへと変貌した。隙がない!斬られる!これが、歴戦の兵を斬ってきた剣豪であるということを剣越しに感じ取る。剣豪の鋭い眼光を受け、立っているのがやっとである。剣豪は人を斬る目をしていた。腰が引け、震える頬から顎の先に汗が滴り、落ちる。斬られる!この圧力から逃れるようにして打ち込んだ面への一撃は剣豪にあっさりと受け流され、返しの一撃が瞬時に襲う。気づいたときには寸前で剣先が止まっていた。死んでいた。滴った汗が地面に弾けた。とたんに重圧から解放され、その場に崩れ落ちる。なんとか失禁(※D氏・J氏等参考)だけは免れたものの、剣に生きる世界の重圧を肌で感じた時であった。その後、小手打ちの秘技を剣豪から伝授してもらい、少しうまくなった気がしたところで稽古を終える。蹲踞。この剣豪との対峙が今後の剣客として大きな糧となろう。そして10年後の京都の動乱で二人が再び剣を交えることになるとは、このときまだ二人は知らない。
稽古を終え、ぼちぼち出発の準備をする。真里ちゃんがコンタクトをつけていたので度数を聞くと左右度が違うにも関わらず、僕と全く一緒だったので、なんとなく幸せな気分になる。同じ世界を共感してくれることに嬉しさを感じた。真里ちゃんのリニューアル眼鏡がよく見えるのにも合点がいった。出発前にスーパーで飲料水の買い出しができなかったため、応急的にマゾ水(※燕・常念岳記録参照)を2リットル調合する。山では美味く感じるマゾ水も下界では不味かった。
リーダー不在のこの企画、今日の船割も何となく決定する。
① 山田・関崎 (新艇)
② 鈴木・佐々木(旧艇)
よく考えてみると艇の種類を選ばなければ、組み合わせは3通りしかなく、明日も下ることを考えれば、結局全員ともペアを組めるので毎日ペアが変わる。今日もたくさん沈できるようにと真里ちゃんが乗る方は旧艇ということでOBが余計に気を利かせる。
出発前、関さんがゴーグルで川を覗くとヤマメがいたと言うことで、タカヒロさんと真里ちゃんが覗いてみるも見つけられない。魚に対する執着心は底が知れない関さんであった。関さんの魚に対する情熱は新歓のときに聞かされた記憶がある。新歓当初、自然人の企画に興味を持てなかった僕に興味を与えてくれたのが関さんである。川での自給自足で野性的な暮らしの話が新鮮で川に興味を持った。そして、多くの川へ行き、多くを感じ、今では川の虜になってしまっているのである。荷物が詰めやすいように対岸に舟で移動し、出発の準備を整え、出発写真を撮る。真里ちゃんを中央に添え、女王に見立ててヴィーナスの誕生を越えるようにして写真を撮る。もはや剣豪の影は微塵もなかった。昨日に続き今日も日差しは強い。
心の俳句、其の陸 「 剣交え 命の限り 夏稽古 」
第七話『活路』
漕ぎ出すと早速ザラ瀬に出くわす。相変わらずの水不足である。本日のルートは昨日に比べると特段激しい瀬はないが、堰堤とダム越えがあるのでやや厄介である。先を進むとなすびホールというところに至るが、渇水でその面影すら分からず、何事もなく通過する。岩だらけの浅瀬を引きずったり、飛び跳ねたりしながらゴリゴリ進む。ラフトの区間から抜けると釣り師が少しずつ増えてくるが、そこまで気にならない。関東の釣り師は横柄な輩ばかりであるが、ラフトのせいか利根川の釣り師は理解のある人が多く、嫌な気分にならなかった。
吾妻橋を抜け、少し漕ぐと堰堤に出くわす。地図に書いていなかったので、事前に調べてきてよかったと思う。軽く下見をして右側の狭いルートを通過し難なく堰を越える。いつもながら堰の意味のなさと無能さに失望を隠せなかった。暑い中、カヌーを引きずるのは思った以上に疲れる。たまにギリギリで下れる岩だらけの瀬が急流であることがせめてもの救いである。水位があればどれほど楽しいことであろうか。そう思わずにはいられなかった。2艇とも岩を縫うようにしてゴリゴリ先を進む。ゴリゴリ、ゴリゴリ・・・。
ようやく利根橋に着く。なかなか来ないタカヒロさんと真里ちゃんを待っていると、利根橋の上から白バイ隊の保安官が声を掛けてくれる。水の音でよく声は聞きとれなかったが、励まされた気がした。この辺りから水質が徐々に悪化し、水底が見えなくなってくる。水底を眺めているとようやく二人を視界に捉えた。二人に話を聞くとどうやら沈していたらしい。真里ちゃんが「ここ大丈夫ですか!?」と聞き、タカヒロさんが「大丈夫!」と応えた矢先の沈だったようだ。連日に渡っての沈とは贅沢な真里ちゃんである。カヌー采配の成果が今日も光る。
利根橋からやや進むとダムの放水口らしきものから大量の水が川に向かって放出されている。遠目からかなり危険な匂いがしたが、下見の結果、人工的ではあったが素直な激しい瀬になっていたので、横から放水口入り口に目掛け突進し、人工の瀬の力強さを味わうことにする。瀬の入り口付近は激しい返し波が出来ていたため、波に弾かれながらも途中から強引に瀬に突入した。素直な高いウェーブと冷たい水を全身で浴びる。波の高低差がかなりあり、ワクワクした。瀬を越えると、先ほどカヌーから水を抜いていたのにも関わらず、カヌーは水でいっぱいになっていた。瀬が終えた先で旧艇の沈を見守っていたが、旧艇は問題なく瀬を越えたのでつまらなく思う。真里ちゃんがずぶ濡れになって寒そうにしていたので、ポットのお茶を差し出し、すかさず体力の回復を図る。まだ、唇も正常であった。
しばらくして、上牧ダムの水門が見える。ここで、お昼休憩をとる。時計は2時を指している。両岸に木々が鬱そうと茂る静寂の中、水辺でおにぎりを食べる。時折、水鶏(くいな)が羽ばたく以外は静閑を保っていた。おにぎりは、朝方関さんが釣りをしている間に3人で握ったものである。サランラップが小さかったせいか、おにぎりも自然と小さくなった。作っているとき、タカヒロさんが南澤さんにおにぎりをダメ出しされたトラウマティックな思い出を語り、自信なさげにおにぎりを握っていた。おにぎりを握るのは久しいもので、単純作業ではあったが不思議とワクワクした。折角なので、関さんに特注のおにぎりを作ろうということになり、タカヒロさんと僕でおにぎりにバンホーテンのカカオを詰め、それを真里ちゃんが握ってカカオ味のおにぎりを作っていた。そこでさりげなく、カカオ味のおにぎりを関さんに渡す。3人が笑いをこらえチラリと目を向ける中、普通に食べる関さん。ニヤニヤしているとやっと関さんがカカオの違和感に気づく。関さんは、カカオならぬオカカだと思ったと言って笑わせてくれた。日陰で寒かったのでタカヒロさんが火を熾そうとするが、昨日に続き今日も失敗する。代わりにポットのお茶で暖まる。食べ終わったサランラップの屑を見て、林田のラップの思い出を真里ちゃんに語り、話し終える頃には再びカヌーに乗っていた。森の間をパドルの音だけが木霊した。
ダムに近づくと、下見できそうなところがない。ようやく左岸のハシゴから関さんが下見を試みるが、それも失敗する。そんなときでも、関さんはちゃっかり真里ちゃんのために橙色の綺麗な花を摘んで戻ってくる。紳士的な関さんに、先を越されたと影ながら焦りを感じた。仕方なく、ゆっくりとダムに近づいてみたところ、落ち込みの直前左岸にカヌーを着けられたので、舟から下りてダムを眺めてみる。落ち込みの先は7メートルほどの滑り台になっており、中央にカヌー1艇分が下れる程のスロープがあった。スプラッシュマウンテン並みの落差7メートルのスロープはさすがに危ないだろうと判断し、スロープを使いカヌーだけ豪快に流して、我々は滑り台を滑り降りる。いつの間にか関さんがタチウオの死骸を見つけたようで拾って見せてくれた。いつでも魚に余念がないのはさすが王子である。一方、死骸に脅える真里ちゃん。脅える反応が可愛らしいのでOBは思わずニヤニヤした。
日が西に傾くにつれ、曇りがちになってくる。そろそろ真里ちゃんの唇も青くなる頃である。ダムを抜けると心なしか水量が増えた気もしないでもない。そのままサクサク進み、本日のテン場の矢瀬橋に着く。地図では橋の先がテン場適地となっているが、川原沿いに付けるなら橋手前の方がテン場に適していたので、橋手前に陣を取ることにする。テン場の下見帰りに蛙を見つけたので、真里ちゃんにプレゼントする。予想通りの反応を示してくれる真里ちゃんに思わずニヤニヤする。さらに関さんが蛙を真里ちゃんに向け跳ばそうとするもなかなか跳ばない蛙にイライラし、強引に指で弾いたところ、蛙が弾け跳び真里ちゃんの顔に直撃する。関さん、やりすぎ!複雑な表情を浮かべる真里ちゃんではあったが、こうして今日もOBのイジメに耐え忍ぶのであった。
心の俳句、其の漆 「 静かさや クイナ驚く 笑い声 」
第八話『情実』
荷物を川岸に上げ、テントを張る。着替えを済ませ、薪を軽く拾い集めてから買い出しへと向かう。経験者揃いだと指示を出さなくていい分、各作業に無駄が無く、人数のわりに素早く事を済ませられる。関さんはウナギを釣るため、今日も独りで漁に出た。テン場から釣り人が仕掛けでウナギを引き揚げるのを見ていたので、関さんに一段と期待がかかる。関さんに別れを告げ、1キロ先のスーパーベイシヤへ行く。夕飯を何にしようか考える3人。とりあえず、桃が美味しそうなので桃をカートに乗せる。さらに、野菜が美味しそうなので、セロリにトマトにキュウリにキャベツに紫タマネギと次々にカートに積む。自然と生野菜を食べる流れに賛同する。カートは3人の欲望を具現化したようなものとなった。メインディッシュは関さんのウナギであるが、釣れないことを考えてウナギを買うものの、建前は味比べをしようということで中国産のウナギを購入する。結局、今晩は鰻丼と生野菜ということで落ち着いた。そして、明日朝の分の焼きウドンと仕掛け用の餌として58円のサンマを2尾、今晩の酒を買い込む。帰り道、タカヒロさんのところにOB中山さんから飲みの誘いが来る。こっちまで来るように誘ったところ、僕と真里ちゃんがこの電話を知らなかったら、明日のカヌーや車に乗れる余裕があったら、サプライズで来てくれたそうだった。中山さんらしいと思うも、残念に感じた。
近くにあった道の駅の公園で水を汲み、テン場に戻る。対岸で釣りをしている関さんに手を振り、漁の成果に期待を抱く。そんな折り、丁度テン場に戻る頃に夕立に降られる。早くも夏を感じさせる雨である。急に夕立の匂いがむんむんと辺りに立ちこめた。3人は雨から逃げるように颯爽とテントに入り、関さんの帰りを待ちわびながら夕飯の支度を始めた。雨に急かされるようにしてようやく関さんが戻ってくる。さて、本日の成果は・・・無!予想はしていたが、やはり残念すぎるので、誤魔化すようにして冷えたビールで乾杯する。僕は知らなかったが、普段関さんはいつも川に行くと魚を釣り上げるのだとタカヒロさんは弁護した。それでも関さんはちゃっかり仕掛けを用意してきたとのことだったので、ウナギは明日捕れるはずと胸を叩いた。
夕立のため、今日はテント内で自炊をする。テント内の自炊は山にいる気概にさせた。米以外は時間がかからないので、剣の稽古のお礼にと米の炊き方を真里ちゃんに教える。米を上手に炊くには米との会話を楽しむことにある。まずはそこからである。吸水の間、野菜を切った。企画で生野菜を食べるなんて新鮮で嬉しい気分になる。火を掛ける料理が当たり前となる中、生野菜という発想は自分にとって新鮮すぎた。4年目で初めての献立である。調理中、関さんのビールをこっそり倒したりしたが、野菜を無事切り終える。紫タマネギの美味しい食べ方や野菜の上手な切り方などいろいろ教えてくれる家庭的な真里ちゃんに感心する。こういうところに真里ちゃんの上品さを感じ取ってしまうのだろう。酒を飲みながら料理するのも悪くない。そう思って調理をしていると、うっかり米の底を少し焦がしてしまった。3合の米炊きは初めてだったので火を少し掛け過ぎてしまったようだった。とはいえ、それは米奉行の次元の話であって、常人にとっては無論成功の範疇であるのは言うまでもない。蓋を開けると米の蒸気と米臭がテント内に充満した。
食前に真里ちゃんが気を利かせて公園からトレペを持ってきてくれる。トレペに「月夜野はーべすと」と印字されていたので、僕は「月夜野はベスト」と読むと何故か笑われる。正しくは「月夜野ハーベスト」であると気づく。紛らわしい印字であったが、その場を和ませるには十分な出来事であった。どこからかOB中江さんの声がすると思ったら、タカヒロさんが中江さんと電話をしていた。本日2度目の飲みのオファーに対し、仲介役として中山さんを紹介する。同期に人気者のタカヒロさん。ちなみに中江さんは就活のとき、朝ヒゲを剃ったのにも関わらず、午後の面接にて、何故ヒゲを剃ってこなかったのか質問されるほど有毛な人だと真里ちゃんに教えてあげる。米の蒸らしの間、スープを作り、一方でウナギをアルミに包んで焼く。食卓が充実してくる。スープにセロリの葉を入れ、ウナギを米の上に乗せ、皿にマヨネーズを盛り、ビールを片手に夕飯に臨む。
今回のメンバーが生野菜の味が分かる人たちでよかったと思う。ヘルシーな料理に自然とビアを一人3缶くらい空ける。タカヒロさんがトマトにマヨネーズを付けたことから味に対する論争が白熱する。真里ちゃんがトマトにマヨをつけることを突っ込むと僕と関さんが賛同する形になる。トマトは生が一番だと3対1。追い込まれた劣勢のタカヒロさんは苦しまぎれにマヨネーズ以外でつけるものがあるかと聞く。応戦する真里ちゃんは、醤油と応答する。えぇええええええ!OBはその回答に驚きを隠せなかった。佐々木家ではたまに醤油にトマトをつけるそうである。さっぱりして美味しいですよと真里ちゃんは言った。試そうにも、醤油がないので断念する。他にもポン酢は旨いと語るタカヒロさんと関さんに対し、僕と真里ちゃんは否定的になり、味に対しての追究に余念がない4人であった。
テントで騒がしく話していると最近よく企画でお世話になる白と黒の見慣れた車が近づいてくる。うわーと思って嫌な空気がテント内を取り巻いた。しかし、そうではなかった。近隣住民が夕立による河川の増水を心配してわざわざ警察に通報してくれたようである。杞憂ではあったが、親切な住民の方と親切な警官の対応により、この場で増水に注意を払いながら長い夜を楽しく過ごす方向で落ち着く。ここは利根川、よい川である。
心の俳句、其の捌 「 夕立に 降られてなおも 成果無し 」
第九話『篝火』
真里ちゃんがこの夏、無人島でバトルロワイヤルをする話や僕の記録へのこだわりの話をしているうちにようやく雨も上がる。食事も丁度終わり、焚き火の準備に取り掛かる。買い出し前に薪を軽く防水しておいた甲斐があり、薪は無事である。タカヒロさんが3度目の正直で火を熾す。火が付くと早速、夏の風物詩、花火を豪快に始める。普段は花火など人にやらせて見ている方であるが、今回は4人で童心に返ったようにして命一杯花火を楽しむ。美しく燃えゆくほんの僅かなときを走ったり、飛び跳ねたりして色とりどりの世界を作り出す。花火の光で微かに照らされるみんなの顔はどこか笑顔に満ちていた。最後は線香花火を手にし、互いの火の玉を取り合った。ポトリと散り行く線香花火が今日の終わりを告げ、ほのかに残る火薬の匂いと煙が夏の夜空に吸い込まれるようにしてゆっくりと消えていった。
焚き火を囲み、昨日焼き損ねた焼き芋をアルミホイルで巻いて火に突っ込む。更に、買ってきたサンマを関さんが釣ってきたことにして、サンマを串にさし、塩を振ってあぶる。揺らめく炎に照らされたサンマが焚き火の雰囲気を醸成する。富士川も天竜川もまともな焚き火をしてあげられなかったので、利根川で真里ちゃんに川の焚き火を堪能させてあげられて良かったと思う。焚き火の前でゴロゴロしながら、燻る炎色の焔を見つめ日本酒「四万十川」を飲む。柔らかく蒸かされた焼き芋とこんがり塩の利いたサンマが日本酒を一層旨く感じさせた。川原で過ごす夜はやはり焚き火に限る。焚き火を見ているだけで、不思議と心が落ち着く。昔は焚き火など全くの疎遠であったが、今では自分で火も熾せれば、楽しみ方も知っている。東京の大学に通い、世界が機械化に向かう時勢に、こんな経験ができるとは恵まれていると思った。関さんが刺した方のサンマは無事であるが、真里ちゃんが刺した方のサンマは串からだんだんずり落ちてくる。関さんの刺し方の技術にも魚との闘争の日々が窺えた。サンマは腸や目玉まで美味しく頂き、58円を丸々味わう。デザートには先ほどの桃を食べる。真里ちゃんの家庭的な切り方に再び惚れ惚れしてしまう。刃物の扱いにはやはり長けているようであった。
先ほどの雨で、川の水面に幻想的な霧が立ちこめている。霧にちなんで真里ちゃんが鼻歌を口ずさむ。古い懐かしい歌であったが、関さんが気づき、僕も知っている歌であった。
狭霧消ゆる湊江の 舟に白し 朝の霜
ただ水鳥の声はして 未だ覚めず 岸の家
どこか懐かしいレトロな曲調が霧を一層幻想的にした。耳を澄ますと、霧の奥から川のせせらぎが微かにするようだった。
夜も更けてくると、4人で仰向けになり焚き火を囲む。眠りに落ちるのも近い。僕がハーモニカを吹くと真里ちゃんが一緒に歌ってくれた。今まで題名がわからなかった曲について、それが「遠き山に日は落ちて」だということを教えてもらう。真里ちゃんは唱歌にも詳しいようだ。タカヒロさんと一緒にハーモニカを使っていろいろ演奏する。長い夜は川で時間を忘れて音を楽しむ。静かな場所で奏でる音楽もまた風流である。僕らの音は夏の夜空に遠く響いた。いつの間にか、関さんと真里ちゃんは眠っているようだった。こうして長い一日も自然と闇の帳に包まれ、心地よい眠りにつくのだった。
心の俳句、其の玖 「 篝火に うつつを抜かし 花火かな 」
2008年7月21日(月)晴れ
第十話『猜疑』
朝起きるといつものように関さんがいない。今朝も懲りずに漁に出たようである。今朝は僕も早起きして眠る2人を見ながら、この旅の出来事をいろいろ思い出しながら記録を手帳にまとめる。僕は今年の企画から記録を手帳に纏めるようにしている。企画中、時として面倒な作業ではあるが、後に企画の出来事を忘れずに振り返るためにも有毛なことである。企画の一つ一つの出来事は物語である。今の感情や出来事を将来の自分に伝える、単純ではあるが、大切なことでもある。今時の自然人の風潮に流されたと言ってもいいが、良いことは模倣し合うことも大事であろう。今朝の出来事として、タカヒロさんのヒゲが少し濃くなっていたと早速手帳に刻み込まれた。今日も関さんがいないことをいいことに、真里ちゃんが連日のように関さんのエアマの上に転がり込む。真里ちゃんの左腕に残る竜牙痕が今日は青黒く変色していた。そこに更に蚊に刺されの痕も加わり、ますますお嫁に出せなくなった。1時間ばかり回想に耽った後、腹が減ったので朝食の準備に取り掛かる。
朝食は焼きウドンと昨晩の残りの生野菜である。仕掛けを取りに関さんとタカヒロさんがカヌーを使って対岸へと向かう。が、座礁して戻ってくる。結局、ウェットスーツとライジャを装着して本格的に対岸へと向かう。その間、真里ちゃんと朝食の準備と焚き火の後始末をする。真里ちゃんはもったいないからと言って昨日の焼き芋の残りをついばんだ。炉の近くに線香花火が丁度2つ残っていたので、僥倖と称して2人で火をつける。朝の花火は光がよく見えず、黒く燻った玉が燃え、ポトリと落ちるという何か悲しい感じだったので、やらなきゃよかったねと2人で完結する。焼きウドンの完成間近にOB二人が帰ってくる。ウナギを期待していたが、昨晩の夕立で水位がやや上がり仕掛けごと流されてしまっていたとのことだった。結局、この企画で58円のサンマと中国産のウナギとタチウオの死骸以外魚を手に取ることは無かった。
焼きウドンを食べながら、今日の計画を練る。今日は帰京するので、サクサク行こうということで決定する。関さんの素晴らしい提案で今日の荷物はテントごとここに放置しておき、後に車で取りに来るというノーパッキン計画を遂行する。急ぎのため本日の剣の稽古はお休みであったが、10時過ぎに出発する。ただ、出発前にちょっとした事件が起こる。
「ないっ、あたしの歯ブラシがない!!」
「(´ω`;)!」
「(´∀`;)!!」
「(´Д`;)!!!」
真里ちゃんが先ほどここに置いておいたはずの歯ブラシが突然消失したのだった。真里ちゃんが鋭い視線をOBに向ける。殺気を帯びた眼光にいつもの真里ちゃんの面影はもうない。本格的に焦り出すOB。いくら変態OBとはいえ、まさかこの中の誰かがそんな鬼畜なことを!?可能性は完全に捨てきれない!重い殺気がOBを取り巻き、脂汗が滲み出る。関さんと僕はお互い必死に潔白を表明する。そのとき丁度タカヒロさんだけトイレに行っていたため、関さんと二人で犯人(ホシ)は奴しかいないという結論に達する。まさかタカヒロさんがそんな人だったなんて。こうする他、我々の身を剣豪から守る術はなかった。平生を装って帰ってきたタカヒロさんを捕らえ挙げ、尋問に掛けると、ようやく口を割った。「さっき道端に歯ブラシ落ちてたよ」と。この一言であっけなく事件は解決に向かう。持ち出したタカヒロさんが困った挙句、道端に捨てたという説もあったが、ただ単に真里ちゃんが歯磨きの帰り道でケースの中身の歯ブラシを落としただけということであった。こうして無事嫌疑も晴れ、一件落着であった。しかしながら、もし、タカヒロさんが歯ブラシを見つけていなかったとしたら・・・。
迷宮入り寸前の難事件を解決し、必要なものだけ簡単にパッキングをし、出発の準備にかかる。今日の船割は残りのワンパターンであるのであっさり決まる。
① 鈴木・山田 (新艇)
② 関崎・佐々木(旧艇)
言うまでもないが、今日も真里ちゃんが乗る方は旧艇とする。今日も沈に期待がかかる。本日のルートは2級程度で特段激しいレベルではないが、テトラや人工物が多い区間だったのでそれなりに注意が必要だ。いつものように出発写真を撮り、船を出す。
昨日の雨で水位が若干上がったせいか、ぎりぎりカヌーを引きずらないで川を下る。岩が多いものの、2級程度の瀬が連続してあり程よく川を楽しむ。今日は荷物を積んでいないので広々と足を伸ばして伸び伸びと川を下る。パッキングをしない川下りなど初めてであった。しばらくして、テトリスというテトラゾーンに入る。テトラ地帯の真ん中に瀬があり、左側に回避できるが、水量がなんとかあったので真ん中を通る。人工物は近づくと危ないので少し冷や冷やする。そして、ここから人工物が徐々に増えてくる。
月夜野橋、月夜野大橋とカヌーを引きずることも少なく、順調に瀬を下る。久しぶりの前衛で水をたくさん被り、急流を満喫する。水量のあるときの利根川はどれほど楽しいことだろうと思ってしまう。考えただけでもワクワクする。途中、タカヒロさんが前後を代わってほしいということで前後を交代する。川派にとって前衛をやる機会はむしろ少ないので、お互いまたとない機会を満喫する。こうして2艇は前後しながら真夏の太陽と利根川の水を全身で浴びながら、のんびりと川を下った。
出発して1時間が経ち、月夜野トラックターミナルで休憩を取る。1週間前の山で余ったカムカムレモンとカントリーマーム、真里ちゃんにあげた雷鳥の里をみんなで食す。加えて、今日もポットのお茶で早めに真里ちゃんのHP回復を図る。そんな折り、真里ちゃんがさりげなく超衝撃的爆弾発言をしたので、OBは驚き、おののき、狂喜乱舞する。うぉおおおおお!こ、これは、4人だけの秘密にして利根川に流しておこう。利根川、やはり偉大な川である。
心の俳句、其の拾 「 歯ブラシの 嫌疑かけられ 汗立つ身 」
第十一話『末流』
出発前の計画ではトラックターミナルで切り上げる方向であったが、思いの外に時間がまだあったので先に進むことにする。水位が上がったのが功を奏したようだ。この辺りからみんなで無茶し始める。新艇の安定性に物足りないタカヒロさんが舟の舳先で後ろ向きになって川を下るという暴挙に出た。始めは順調だったが、瀬の途中の岩にぶつかった衝撃でタカヒロさんが後頭部から落沈する。綺麗に落っこちたので思わず僕は爆笑する。一方、関さん艇は瀬で逆向きになってしまったものの、関さんがそこから急遽一人で逆向きになり、真里ちゃんと背中合わせになる感じに前で舵をとる。自然と後ろ向きで下るはめになる異様な姿の真里ちゃんに手を振りながら瀬を楽しんだ。他にも、4人乗りでカヌーを漕いだり、真里ちゃんを沈めたりして遊ぶ。真里ちゃんが沈をよけようとしてひっくり返ったカヌーの裏側へと逃げる芸術的な動きに驚かされるが、結局またひっくり返して沈させる。タカヒロさんが懲りずに、向こうの舟の先端に逆向きで乗り込み3人で瀬を下る。予想していたが、タカヒロさんが落ちた勢いで巻き添えを食らい、あえなく3人とも沈する。また一人で爆笑する。とはいえ、何気に2級程度の瀬であるので救助は怠らない。いついかなるときであっても決して川を舐めてはいけないのである。
最後の瀬、ファイナルファンタジーを下る寸前、タカヒロさんと関さんが船の乗っ取り合いを始める。その結果、両者が入れ替わるという珍事になり、ファイナルファンタジーだけ昨日のペアで瀬を下る。竜ヶ瀬を彷彿とさせる白く薄い綺麗な岩が続く浅い瀬を滑るようにして進む。最後の瀬に相応しい清らかな瀬である。晴れた青空に水しぶきが心地よく乱れ飛んだ。
最後の瀬を抜け、長く険しかった利根川リバーツーリングもついに終焉を迎える。地蔵橋に舟を着け、みんなでハイタッチをしてゴールを祝う。ゴールを惜しむ寂寥感が自然とみんなを川へと押しやった。晴れ渡る空の下、4人で川へ飛び込む。あんなに冷たかった川も今思えば、心地よいものである。ライジャを着ていない真里ちゃんを本格的に沈めるOB。初日と何一つ変わらず沈められる真里ちゃん。押し合い圧し合い掴み合って全員で川へ沈め合う。沈め合ったり、投げ合ったり、水掛けをし合ったりと川下りを超越したオレンジデイズ的な情景であった。僕は1人だけ、ライジャをまだ外していなかったのでライジャ制裁を受ける。ライジャの締め付けられる感覚は嫌いではない。関さんとタカヒロさんに両手両足をつかまれ、川へ放り投げられる。ざぱーん!勢いに乗ったOB二人は調子に乗って真里ちゃんも同じように川へ放り投げる。余った僕は真里ちゃんが怪我をしないようにキャッチするとお姫様抱っこをする形になり僥倖を堪能した。何はともあれ、晴れた川がやはり一番であると確信する。
心の俳句、其の拾壱 「 青空へ 心通わす 水飛沫 」
第十二話『氷解』
川から引き上げ、ゴールの記念撮影をする。最後は全員で肩を組んでまとまりのある感じでゴールを喜ぶ。終わりよければ全てよし。団装を乾かし、地蔵橋から見える温泉へ直行する。こんなにゴールから近い温泉は初めてだったので感動する。まさに川人のための温泉である。
温泉の前に行くとどうも活気がない。どこか怪しい空気が漂う。廃れた駐車場、開かない自動ドア、ドアに掲示された張り紙・・・ま、まさか!?紙に法律用語が散りばめられる中、「破産」と書いてあったので読むのを止める。つまり、破産で営業停止中ということである。仕方なく、偶然隣接されていた大きな公園のトイレで着替えを済ます。男女それぞれ大きな個室が1つしかなかったので、男3人で個室に入り着替えをする。ここで、タカヒロさんに残念なことが起こる。ズボンワスレター。テン場にズボンを置いてきてしまったようだ。一人だけ、上着をスカートのように纏い、なんとか取り繕うタカヒロさん。気分はJKさながらである。関さんの肩からの日焼けが激しく、連日の日差しの強さが窺えた。腕の裏表をくらべると、まるでオセロのようであった。
日陰を探して昼食を採る。皮肉にも、日陰は破産した温泉の入り口が一番近かったのでそこに移る。昼食はパン。タカヒロさんはピザパン、関さんはカレーパン、真里ちゃんは明太子味のフランスパン、僕はチーズパン。昨日3人で関さんのパンをチョイスしたものだったが、関さんはインドっぽいということでカレーパンに決定していた。関さんに好きなパンを聞くとクロワッサンだったので惜しかったと思ったが、カレーパンも好きだと言ってくれたのでよかったと思う。ケチってサンマより安い田園ロール(50円)にしなくてホントによかった。
タクシーを呼び、関さんだけ車を取りにスタート地点まで戻る。残った3人でカヌーとその他団装を片す。晴れ間が続いていたので団装がすぐ乾き、サクサク片付けが終了する。この企画を振り返り、こんな楽しい企画は久しぶりだと思う反面、こんな楽しい企画は今までにあっただろうかと感情をこぼすとその心境を真里ちゃんが共感してくれて嬉しく思う。こんなに晴れた川も久しぶりであった。暑いので橋の下の日陰に移り、関さんを待つ。橋下で水切りをして遊ぶ。石が2回くらい真里ちゃんをかすめたので自重する。疲れて昼寝するタカヒロさん。川原でのんびりする真里ちゃん。川を眺める僕。橋下から橋桁を見上げると無数の燕が飛び交っていた。よく見ると燕の巣がいくつも橋の下にあった。親鳥も忙しそうである。夏の風が橋の下を強く吹き抜けると、その風に乗るようにして燕は高く旋回し遠くへと飛び立っていった。
関さんが車で来るまで真里ちゃんと話をする。真里ちゃんは足の先を川につけて涼んでいる。ふと、真里ちゃんが昔の思い出を語ってくれた。中学時代の栄光と水に精通する理を聞かされる。謎多き少女真里ちゃんの知られざる過去の秘密がまたもや解明され、少し納得する。ジュニア時代の意外な真実、記録に書くのが忍びないので、2人だけの思い出にしてこれも利根川に流しておこう。風もそれを聞いて納得したのか、真里ちゃんの髪を軽く靡かせた。
3時頃関さんがやってくる。カヌーを詰め込み、昨日のテン場の矢瀬橋まで戻って更に荷物を積む。行きと同じくトランクは荷物でいっぱいになった。途中に温泉らしき看板を見つけたので、温泉に向かう。幾度となく現れる看板と関さんの車に何度も求愛をしてくる可愛らしい小鳥に翻弄されながらも、町営温泉センター月夜野の湯へ至る。町営ということで諏訪の湯と同じく低価格350円であった。温泉は崖の上に位置し、林に囲まれた露天風呂がいい雰囲気を醸成している。小さい風呂の割に地元の人が次々と出入りしていた。地元民のささやかな交流の場となっているのだろう。温泉の湯は日焼けした肌には熱すぎたが、ゆっくり浸かって疲れをとる。ただでさえ熱いのに地元の人が今日はぬるい方だったと口走っていた。風呂から上がると、ラーコを飲み干し、風呂上がりの一杯を堪能する。目を閉じて涼んでいると、ヒグラシの鳴き声が林に響いており、思わず夏の音に耳を傾ける。もう夏である。
温泉を後にすると車は都を目指し南へ向けて走った。音楽をかけようとタカヒロさんが懸命に車の機器と格闘する。結局82.5chで電波が届く。その間、今回の旅を手帳にまとめてみると既にいろいろ忘れており、記録の大事さを真里ちゃんと実感する。高速に入ると、関さんが眠くならないようにと、みんなでお題を出し合って話を続けていく。幼少期の話から始まり、話はいつの間にか逸れていくという流れであった。真里ちゃんの出生の秘密から始まり、流れ着いた先はタカヒロさんのオカンがとにかく凄まじいことこの上ないこと、佐々木家の家族の絆が強固なことこの上ないことであった。真里ちゃんの謎がまたもや解明され、納得するOBであった。
心の俳句、其の拾弐 「 炎天下 乙女の謎を 解かすまで 」
第十三話『酒宴』
渋滞で混雑していたが、いろいろな話で盛り上がっていたせいか、あっという間に関さんの故郷川口に到着する。今日は関さんの家で打ち上げという豪華な締めくくりである。関さん宅付近のスーパーで簡単に買い出しを済ませる。乾杯用のビールと差し入れ用のスイカと醤油味のトマトを実践するためにトマトを購入する。カートは再び欲望で埋め尽くされた。買い出しのとき、ふと真里ちゃんの腕の蚊に刺されが異様に腫れているのに気が付く。黒ずんだ竜牙痕に加え、ひどい蚊に刺されで手や足などが血まみれであった。みんなも同様に血にまみれていたが、真里ちゃんの傷だらけの身体が一際目立っていた。いよいよお嫁に出せなくなったと感じる。
関さん宅にお邪魔すると早速関崎家の愛犬ハナが挨拶がてら家を駆けずり回る。一方、関さんは鍵をかけっぱなしで出掛けていたため、早速怒られている。それはさておき、奥の間一室をお借りして宴会を早々と始める。冷えたビールで乾杯すると愛犬が4人の顔を祝うようにして舐めてくる。真里ちゃんを舐める愛犬を見て、僕も犬になりたいとつい口をこぼしてしまう。すると関さんが、一応メスだからとさりげなく弁護した。関さんのお父様が和食を、お母様が洋食を振る舞って下さり、食卓が色鮮やかな輝きを放つ。更に、お父様が還暦祝いの極上の日本酒を振る舞って下さり、一緒にお酒を酌み交わす。日本酒を注ぐと酒の中に金箔が入っており、グラスの中で金箔が舞った。かなりの高級感が漂う。うめぇ!関さんのお父様も山を登るらしく大キレットを5回、ジャンダルムさえも越えたことがあるかなりの猛者であり、山話に華を咲かせる。毎年山に登っているらしく、さすが王子様の父上、王様でありました。
関さんのお母様に醤油を持ってきてもらい、いよいよトマトに醤油をかけてその味を確かめる。さっぱりしたトマトがさっぱりするという不思議な味である。やはり生が美味しかったが、これもなかなか美味しいと思うも、関さんは生、タカヒロさんはマヨといった反応であった。後日家でもう一度食べてみるが、それなりに美味しい味だった。お母様が気を遣って料理をたくさん出して下さったので、酒が進んだ。真里ちゃんの酒豪っぷりに関さんのお父様も驚きになられる。佐々木家では飲める方だと自ら語る酒豪。みんなで豪快に日本酒を飲むと、恐れ多くもあっさりと万単位のポン酒が空いてしまう。申し訳なく思うも、日本酒が空くとお父様は満足そうに床へ向かわれたので、旨い酒が飲めたことを素直に喜ぶことにした。最後に差し入れたはずのスイカをお母様がわざわざ切って持ってきて下さり、結局みんなでスイカを食べる。企画の最後の最後まで夏の味を堪能した夜だった。こうして、ある夏のある夜のある街で4人の談笑は利根川のせせらぎのようにいつまでも空に響くのであった。
心の俳句、其の拾参 「 いつまでも 利根のせせらぎ 消えないで 」
2008年夏、僕は利根川で起こった短いようで長かった濃密な旅を終える。明日も明後日もその先もずっとこの夏の間は暑い日が続き、まるで何事もなかったかのように利根川は流れ続けるだろう。泳ぐ魚や飛び交う蛍、満ちては欠ける月、自然の輪廻は形を変えては繰り返されるだろう。この何気ない自然輪廻が僕らに何を与えたかを他に誰が知り得るだろうか。例えこの旅の記憶が薄れ行ってしまったとしても、この記録が当時のままの鮮明な記憶をいつでも呼び起こす。あのとき感じた興奮と喜び、何気ない笑い、ときめく感動、ただ純粋に感じた楽しさや幸せ、数々の思い出を惹起させる。その幾ばくからなる彷彿がやがて自らを寂寥感へと急き立て、旅に対する愛惜の念へと変貌を遂げるまで。全てを語り尽くす。この偶然の出会いとこの素晴らしい成員とに起こった一夏の思い出を色褪せぬように書き綴ることが僕に出来る最善の報恩である。この旅に纏わる感謝の念と愛惜の念をこの先も忘れぬよう、今ここに書き留めておくことにしよう。
あとがき
ここまで読んで下さった読者の皆さん、お疲れ様でした。毎度ながら長い記録ではありましたが、今回は一際長い記録になってしまいました。これを最後にもう記録を書くこともないでしょう。旅の内容全てを書き綴ったつもりですが、実際はまだまだ書き足りないことばかりです。それだけ内容の濃い充実した旅でした。
今回の企画は非公認であり記録提出の義務はありませんが、利根川がいい川であったこと、企画自体がとても充実していたこと、記録提出の活性化にOBとして努めることの意味を込め長々と書きました(とはいえ、記録の内容は粗末なものですが)。一部、現実味を欠く誇張表現もありますが、その場の雰囲気を表すものとして、何卒ご理解頂けたらと思います。
企画自体はリーダー不在というOBならではの企画でしたが、その分、企画者に頼りきらない、協力分担して全員で企画を盛り上げるという自分一人だけでは決してできない、今までにない企画形成の経験をさせて頂きました。おかげで企画を提供する側と連れて行かれる側の両方を同時に楽しめるという充実感に溢れた企画を初めて味わうことができました。また、久しぶりの激流ということもあり、私的には非常に楽しめました。他にも、川を下る以外のイベントとして夏ならではの川を存分に心から楽しめたので本当に満足です。終わるのがこんなにも惜しいと思った川は未だ嘗てありません!
団装の管理から全行程に渡る運転、打ち上げの会場提供を快く引き受けて下さった関さん、連絡の管理から情報の一括化、川での撮影を進んで行って下さったタカヒロさん、所々でいい反応をしてOBを湧かせ、企画に統一感を与えてくれた真里ちゃん、思い出に残る楽しい時間を共有できて本当によかったと思うと共に、ありがとうございました。この素晴らしいメンバー全員なくしてこの利根川企画は成り立たなかったと思い、また、この記録も書くことはなかっただろうと思います。この度の利根川企画に参加できてとてもよかったです。機会があれば次は更なる激流へ挑戦しに行きましょう!
本当に長くなってしまいましたが、利根川の皆さんを始め、ここまで読んで下さった奇特な方、利根川に関わる全ての自然よ、ありがとう!
2008年8月吉日 文責:山田
利根川データ(大鹿橋~地蔵橋25キロ)上級コース [2008年7月現在]
文責:山田
<コースタイム>
① 18:00新学→22:00馬場発→0:15JA前プットイン→1:00決起会→2:30就寝
② 6:30起床→9:00水明荘プットイン→13:30出発→15:00休憩(1h)→17:30銚子橋到着→19:15諏訪峡温泉→21:00夕飯→0:00就寝
③ 7:00起床→8:00朝食→11:30出発→14:00昼飯→14:30上牧ダム→15:30矢瀬橋到着→16:30買い出し→20:30夕飯→22:00焚き火→23:30就寝
④ 7:00起床→8:00再起床→10:30出発→12:30地蔵橋到着→15:45月夜野温泉→20:00帰京打ち上げ→23:30解散
<紅葉峡(幸知橋~大鹿橋)>
l 利根川最強の激流区間、通常水位で3級程度、要下見
l 幸知橋下右岸から利根川の支流湯桧曽川を下ってしかエントリー・下見ができない
l 岩が多いため、渇水時は走行不能。水位確認の上、下るべし
※今回渇水のため、下っていない
<大鹿橋>
l 大鹿橋手前の水明荘下右岸からエントリー可
l トイレ・水場は水明荘で借りられる
l 水明荘手前に車を止めるスペースあり(但し、正規の駐車場ではないので止める場合は水明荘に一応確認を取っておくこと)
<JA前プットイン>
l JAの上流側、ラフトの受付横の道から河原に降りられる
l トイレはラフトの受付横にあり
l テン場適地、エントリー適地
<水上峡(水上駅下~紅葉橋)>
l 中級者向け、通常水位で2級クラスの瀬が連続する区間。良水質!
l 渓谷地帯のため、上陸不可、狭い
l 瀬は連続しているが、トロ場は一応ある
<紅葉橋>
l ラフトの出発地点であり、休日はラフトで混雑している
l 紅葉橋下右岸に広場があり、テン場適地だが、休日はラフト関係で騒がしく、あまりオススメできない
l 右岸近くにスーパーサンモールあり
l 水上峡は温泉街であり、日帰り温泉多数だが、いずれも入浴料1000円程度。安いとこは水上ふれあい交流館(10:00~21:00、550円)
<諏訪峡(諏訪峡大橋~銚子橋)>
l 紅葉峡に次ぐ、激流区間、通常水位で3級程度
l 休日はラフトで混雑して渋滞が出来るため、ラフトの邪魔にならないよう時間に余裕を持った行動を心がける
l 竜ヶ瀬・・・諏訪峡最長の瀬。岩が多く、ルート取りが明暗を分けるので要下見。諏訪大橋手前右岸から下見可。瀬の最後に2メートルの落ち込みがある。ルートは水量にもよるが、右から入って左寄りに抜けるコースがオススメ。
l フリッパーズ・・・3つ連続する瀬の始めの瀬。瀬の真ん中左に隠れ岩、瀬の終わり中央に大きな岩があり、ルートが2つに分かれる。左側のルートは広いが中央の岩への張り付き注意、右側は狭いが流れどおりにいけるのでコースさえ間違えなければ問題ない。瀬の最後に2メートルほどの急な落ち込みあり。右岸から要下見。
l ショットガン・・・増水時は要下見。隠れ岩がおおい。
l メガウォッシュ・・・諏訪峡最強の瀬。落差3メートルのホワイトウォーター。右からインコースに抜ける。右岸から要下見
<銚子橋>
l 銚子橋下右岸、テン場適地。但し、ラフトのゴール地点のため、橋下流右岸(川と河原をつなぐ階段のあたりの芝生)がテン場適地(階段は瀬の途中にあるので注意)
l トイレ・水場はテン場の近くの赤い屋根の建物にあり
l 銚子橋下左岸に温泉センター諏訪の湯(9:00~20:30、300円あり)
l 諏訪の湯付近に商店あり(20:00くらいで閉まる。自販で24時間酒購入可)
l 銚子橋と諏訪峡大橋の間の国道沿い右岸にスーパーコメリあり
l 6月末~7月にかけて蛍が美しい!
<銚子橋~矢瀬橋>・・・240分(うち休憩30分) 水位:前橋+200cm(浅い)
l 瀬が所々連続している区間。平常水位で2~3級程度。水質がやや悪化する。
l 吾妻橋(そのすぐ先にもう1本橋あり)のちょい先に堰堤あり(【注意】55MAPの利根川橋下流の堰堤がここにある!)右岸よりに通過できるところあり
l 利根橋下流にダムの放水口あり。自信のない人は右岸より、自信のある人は左岸より放水口の波に突っ込むと楽しい。下見はなくても可(【注意】55MAPの利根川橋下流の堰堤のところの場所がここ)
l 上牧発電所前堰堤・・・ダムになっている。右岸は大きな水門になっているので近付かないこと。左岸よりは滑り台になっており、滑り台の直前左岸から要ポーテージ。増水時はそのまま流されないように注意。但し、自信のあるひとは中央のスロープから7メートルくらいの落ち込みを下れる。いずれも要下見!
<矢瀬橋>
l 矢瀬橋手前右岸側がテン場適地(増水時水没注意とのこと)
l トイレ・水場は矢瀬流水公園にあり
l 矢瀬橋下左岸にスーパーベイシヤ(10:00~20:00)・カインズホームあり
<矢瀬橋~地蔵橋>・・・120分(うち休憩15分) 水位:前橋+200cm
l 瀬が所々連続してある区間。平常水位で2~3級程度。人工物が多いので注意が必要
l テトリス・・・テトラが右岸・中央下にあるので中央も通れるが左岸よりに回避する
l 月夜野トラックターミナル・・・テン場適地。トイレあり、スーパーコメリあり
<地蔵橋>
l 橋下左岸側テン場適地、橋手前左岸よりに公園・トイレあり
l 55MAP記載の温泉(スパリゾートゆにーく)は破産により営業停止中
<総括>
都内から車・電車ともにアクセスが良く、水質・レベル的にも最上質の川。水上から諏訪のあたりはラフティングが盛んで衝突や渋滞に注意が必要だが、釣り師が入ってこないので鮎解禁を気にせず川を下れる。銚子橋以下も釣り師は少ない。瀬のレベルは渇水時でも2級以上の瀬が多く(MAPに書いていない瀬が多数ある)、隠れ岩も多く、ランニングダウンが増えるので時間に余裕を持って行動したい。増水時は3級を越える瀬も多いので水位確認は必ず行い、紅葉峡・諏訪峡の下見は必ずすること。矢瀬橋以下は人工物が多いので、堰・テトラ・鉄杭に注意。全体レベル的に上級者コースなので経験者向けのメンバー編成を心がけたい。夏でも雪解け水の影響で水温は低いのでウェットスーツ・渓流足袋は必ず着用していきましょう。